2021年4月1~4日に台湾・台北で開催されたバーチャル及びライブの複合イベント、アジア・オセアニア神経学会議(Asian Oceanian Congress of Neurology、AOCN)での発表のハイライト及び専門家の知見をNeurodiemがお届けする。認知症、頭痛、その他の神経学のトピックの主要な進歩について学ぶことができ、リンクをクリックすると、Neurodiemが毎日お届けしているイベントの要約を読むことができる。
刺激的なオープニングセッションでの2つの講演は、ケアの革新を予測し、神経内科医の課題を特定する、未来を展望するものであった。Raad Shakir教授[世界神経学連合元会長、英国インペリアル・カレッジ・ロンドン(Imperial College, London)神経学教授]は、21世紀の神経学についての見解を述べ、診療は見違えるほど変化し続けるだろうと指摘した。
遺伝学的研究及びバイオマーカーの進歩によって様々な疾患の診断及び治療が大きく変わり、脳オルガノイド(脳活動を模倣した生体外器官)を用いた革新的な研究によって理解及びケアに大きな進展がもたらされるだろうと述べた。
「遺伝子発現の発見によって、これまでとは全く異なる診断検査
及び治療法がもたらされる可能性がある」
Raad Shakir教授
これに続いて、Beomseok Jeon教授[アジア・オセアニア神経学会議会長、ソウル大学病院運動障害センター(Seoul National University Hospital Movement Disorder Center、韓国)医長]は、検査及び治療法が適切に使用されるためには、今後も引き続き臨床判断が極めて重要になると強調した。
教授の講演では、運動障害に対する抗体パネルの使用に関するデータが検討され、「自己免疫性脳炎の他の特徴がない場合、抗体陽性は臨床的有意性が疑われることを臨床医は認識する必要があり、臨床判断の重要性が強調される」と結論付けた。
認知症:AOCNでのハイライト
AOCN 2021では、認知機能低下及び認知症を予測並びに識別する手法について、重要な新たな知見がいくつか紹介された。最初に、専門家らが、急速な認知機能低下のリスクが高い早期認知症患者を特定するための予測モデルについて報告した。
専門家らは、早期アルツハイマー病204例及び軽度認知障害患者23例のデータに対して軌跡モデリング法を用いて、「低下が急速な被験者」及び「低下が遅い被験者」の2つの群を特定した。低下速度の有意な予測因子を3つ特定した(表参照)。
認知機能低下予測モデル研究 |
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2つの群を定義した。 |
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低下速度を分類するモデルの重要な因子: |
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パフォーマンス:
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データを発表したYung-Shuan Lin博士[台北栄民総医院神経再生センター(Neurological Institute, Taipei Veterans General Hospital)、台湾]は、「ベースラインMMSEスコア、IADL総スコア、ApoE-ε4ステータスの3つのパラメータで構成される予測モデルを提案する。これは、分かりやすく、診療にも適用しやすい。今後の医療計画において、このモデルが臨床医と患者の手助けとなることを願う」と述べた。
一方、機能的画像化研究によって、主観的認知機能低下(subjective cognitive decline、SCD)中の脳活動及び結合性の初期の変化が新たに明らかになった。Yi-Chia Wei博士(Chang Gung Memorial Hospital、台湾、基隆)は、SCD患者46例及び対照49例の安静時機能的MRIの結果を報告し、SCDでの内因性脳活動の初期の変化が検出可能であることを示した。
Wei博士は、「局所的な結合性の臨床相関は、主観的認知的愁訴が視覚、聴覚及び注意ネットワークの局所的な動的結合性と正の相関関係にあることを示している。不安は腹部注意ネットワークと正の相関関係にある」と述べた。このような知見によって、今後の診療に役立つ早期バイオマーカーの特定につながる可能性がある。
認知症ケアに役立つ人工知能(artificial intelligence、AI)について、Li-Chen Fu教授(国立台湾大学Center of Artificial Intelligence and Advanced Robotics、台湾、台北)は、未来は今だと述べた。Fu教授は、高齢者や認知症患者のケアに適用できるAIベースのツールに関する進歩についてレビューし、次のようなものを挙げた。
- 環境に反応する携帯可能なセンサーを用いたワイヤレスホームモニタリング
- 孤独に対処し、活動及び行動をモニタリングするためのバーチャルコンパニオン
- 機能障害の初期徴候である動作と発話のパターンの変化をディープラーニングアプローチを用いて検出する認知症スクリーニング
「人工知能を
高齢者のケアパスに組み込むことが可能である」
Li-Chen Fu博士
Fu博士は、「AIは、生体情報のインテリジェント追跡から疾患の早期診断まで、高齢者のケアパスに組み込むことが可能である。AIと組み合わせた個別化された習慣的ケアによって、リスクの予防や発症の予測が可能となる。そのため介入が適時に行われ、高齢者の生活の質の改善が可能になる」と述べた。
今回の会議では、認知症に応用されたさらなる革新的な技術として、バーチャルリアリティ(virtual reality、VR)を用いた記憶テストに光が当てられた。神経内科医らが、写実的でバーチャルなリビングルーム環境を作成してテストを実施したが、この環境では、VRユーザーは物が隠されているのを見ることができ、家具の扉を開けたりして部屋の中で物を探すことができた。アルツハイマー病患者16例、健忘型軽度認知障害(amnestic mild cognitive impairment、aMCI)患者15例及び対照群15例のユーザーに、一連の5種類の様々な記憶テストを実施した
Kim Ko Woon博士[Jeonbuk National University Hospital(全州)及び三星医療院(Samsung Medical Center、ソウル)、韓国]らは、対照群はaMCI群よりもテストの成績が有意に良く、aMCI群はAD群よりも有意に良かったと報告した(p<0.05及びp<0.001)。「興味深いことに、対照群の被験者は目標地点に向かって直進したのに対し、AD群の被験者は隠された物を探しながら目標地点に向かって歩き回ったことが、平均的な移動経路の分析によって示された。本研究で開発されたVR記憶テストは、VRを組み入れて現実のイベントを体験するものであり、新たな記憶スクリーニング検査として利用できる可能性が示されている」。
認知症のセッションでは、糖尿病に罹患していない成人における認知機能の抗体バイオマーカーの可能性についての報告もあった。グルタミン酸脱炭酸酵素65(glutamic acid decarboxylase 65、GAD65)は、不可欠な神経伝達物質の合成に関与する酵素である。GAD65に対する抗体(GAD65Ab)は、糖尿病患者に多く見られる(80%もの若年発症1型糖尿病患者に見られる)。
「GAD65Abは、中年期の非糖尿病患者の
認知機能低下の予言的因子である」
Tsai Chia-Kuang博士
専門家らが、被験者328例(平均年齢49歳)を対象とした横断研究を行い、糖尿病成人患者、糖尿病前症を呈する成人及び血糖値が正常な成人におけるGAD65Ab力価レベルと認知能力との関連を調査した。
Tsai Chia-Kuang博士[Tri-Service General Hospital、国防医学院(National Defense Medical Center)、台湾、台北]らは、GAD65Ab力価レベルが高いほど、単純反応時間検査(simple reaction time test、SRTT)及び数字符号置換検査(symbol-digit substitution test、SDST)の成績が全体的に有意に低下したことを見出した。「さらに、GAD65Abは、関連する共変量の調整後に、血糖値が正常な成人及び糖尿病前症を呈する成人の認知機能低下と関連していた(p<0.05)。GAD65Abの存在は、中年期の非糖尿病患者の認知機能低下の予言的因子である」。
参照(認知症):
- Lin Y-S, et al. Identifying cognitive trajectories and predicting rapid decline of cognitive function in early Alzheimer's disease. AOCN 2021;B-9
- Wei Y-C, et al. Local dynamic functional connectivity changes of subjective cognitive decline. AOCN 2021;B-36
- Fu L-C. The application of AI-based technology in aging globe. AOCN 2021;Artificial Intelligence in Medicine session
- Woon KK, et al. A virtual reality memory test for assessing visuospatial memory. AOCN 2021;B-46
- Tsai C-K, et al. GAD65 antibody as a prospective biomarker for cognitive functioning in non-diabetic adults. AOCN 2021;B-1
頭痛:AOCNでのハイライト
今回のAOCN会議では科学プログラムの一環として第8回アジア頭痛学会(Asian Regional Conference of Headache、ARCH)が開催され、片頭痛及び頭痛が主な焦点となった。
Tissa Wijeratne教授(Western Health、オーストラリア、メルボルン)は、1,000人に1人が発症する群発頭痛(cluster headache、CH)に対する現行の治療戦略及び最近行われつつある治療戦略の最新情報を参加者に提供した。群発頭痛は落ち着きのなさを伴うことが多く、アルコール摂取がきっかけとなることも多い。
「(群発頭痛の)優れた最新治療が
現れつつある」
Tissa Wijeratne教授
Wijeratne教授は、急性期及び移行期の様々な治療法並びに発作の頻度を低下させる予防のための様々な治療法に光を当てた(表参照)。さらに、有望な最近行われつつある治療法についても検討した。
- 急性段階では、抗CGRP[calcitonin gene-related peptid(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)]モノクローナル抗体(monoclonal antibody、mAb)ガルカネズマブがプラセボよりもCH発作頻度を減らす可能性のあることが認められている
- 移行段階では、大後頭神経ブロック(greater occipital nerve block、GONB)が効かない場合に複数の脳神経ブロックが作用する可能性のあることが、予備のエビデンスから示唆される
- 予防段階では、翼口蓋神経節の神経刺激が有望であるが、さらに多くの研究が必要である
群発頭痛の治療選択 |
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急性段階 神経刺激、酸素療法、トリプタン製剤 |
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移行段階 大後頭神経ブロック(GONB)、経口ステロイド剤 |
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予防治療 ベラパミル、トピラマート、リチウム、メラトニン、バルプロ酸、ガバペンチン
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Wijeratne教授は「CHは衰弱性の頭痛障害であるが、非常に良い急性期治療選択があり、優れた最新治療も現れつつある」と述べ、楽観的な見解を表明した。
抗CGRP mAbであるgalcanezumabも、治療抵抗性片頭痛患者に有効であることが明らかになった。David Garcia-Azorin博士(University Clinical Hospital of Valladolid、スペイン)は、これまでに2~4種類の治療が奏功しなかった反復性片頭痛又は慢性片頭痛患者462例を対象とした、作業生産性の変化及び活動性の変化を評価した無作為化試験で得た新たなデータを発表した。
ガルカネズマブを投与した患者は、プラセボを投与した患者と比較して、3ヵ月後の以下の項目について仕事の生産性及び活動障害に関する質問票(Work Productivity and Activity Impairment、WPAI)スコアが有意に改善した。
- 疾病就業(p=0.0004)
- 作業全体の障害(p=0.0003)
- 非作業活動の障害(p<0.0001)
Garcia-Azorin博士は、「片頭痛は作業生産性の低下と活動の障害とに関連しており、予防薬治療に適格であるもののこれまでの予防薬治療で効果が得られなかった患者ではさらに高くなる。
複数の標準治療の片頭痛予防薬が奏功しなかった反復性片頭痛又は慢性片頭痛患者集団では、作業生産性の改善においてガルカネズマブはプラセボよりも優れていた。これは、疾病就業、作業全体の障害、活動の障害が統計的にみて有意に低減されたことから実証される」と述べた。
Chin-Sang Chung教授[三星医療院(Samsung Medical Center)、成均館大学校医学大学(Sungkyunkwan University School of Medicine)、韓国]は、「片頭痛の併存疾患に効果的に対処することで、転帰及びQOLを大幅に改善させることができる」と述べた。
教授の発表では、頭痛の疼痛の強度及び頻度を上昇させるリスクが大幅に上昇するという、併存疾患が患者に及ぼす影響が強調された。このリスクを上昇させる一般的な併存疾患(オッズ比1.37~3.79)には、不眠症、うつ病、不安、胃潰瘍、循環障害、アレルギー、てんかん、関節炎、高血圧、高脂血症、腎臓病及び糖尿病などがある。
「併存疾患の重要性について片頭痛患者を教育することは
極めて重要である」
Chin-Sang Chung教授
Chung教授は、「併存疾患は片頭痛患者に多く見られ、双方向の影響を及ぼす。片頭痛患者の評価時、特に初診時には、併存疾患の検出及びスクリーニングを確実に行う必要がある」と述べた。 また、片頭痛及び併存疾患の両方を考慮した共生的な治療戦略を採用し、より積極的に非薬理学的戦略をとることを考慮する必要があると述べた。
「片頭痛管理における併存疾患の重要性を理解し、禁忌薬について知るための患者教育も極めて重要である」。
片頭痛患者のライフスタイル因子及び併存疾患に関する大規模な研究から得られた新たなデータの発表で、併存疾患のテーマが取り上げられた。Yu-Kai Lin博士[Tri-Service General Hospital、国防医学院(National Defense Medical Center)、台湾、台北]らは、台湾の頭痛外来クリニックに通院している片頭痛患者1,257例(20~65歳)及び非片頭痛対照496例を対象に面接及び評価を行った。
片頭痛患者は、以下の項目の有病率が有意に高かった(いずれもp<0.05)。
- 内科:甲状腺疾患、消化性潰瘍疾患、僧帽弁逸脱
- 精神医学関連:うつ病、不安、不眠症、主観的記憶愁訴
- 疼痛関連:線維筋痛
- その他:過敏性腸症候群、慢性疲労症候群、緑内障
また、前兆を伴う片頭痛患者は、対照と比較して現在喫煙をしている割合が高かった(それぞれ15.5%対11.5%、p<0.05)。サブグループ解析によって、慢性片頭痛、前兆を伴う片頭痛及び女性は、それぞれ反復性片頭痛、前兆を伴わない片頭痛及び男性と比較して、より多くの重大な併存疾患と関連していたことが示された
Yu-Kai Lin博士は、「片頭痛患者では、対照と比較して現在の喫煙、内科関連疾患、精神医学関連疾患及び疼痛関連疾患が多く見られた。片頭痛と併存疾患との関係を理解することによって、医療及び生活の質が改善する可能性がある」と述べた。
AOCNで注目の話題にもなった併存疾患の問題はさらに詳しく調査され、片頭痛と不眠症とに共通する脳の機能的結合性パターンについての新たな結果が得られた。Fu-Chi Yang博士[Tri-Service General Hospital、国防医学院(National Defense Medical Center)、台湾、台北]は、片頭痛及び不眠症はデフォルトモードネットワーク(default mode network、DMN)の機能障害と関連していると述べ、片頭痛及び不眠症が併存している状態でのDMNサブネットワークの機能パターンの変化を明らかにした研究結果を報告した。
「DMNサブネットワークの接続性の変化は
不眠症及び片頭痛の併存のバイオマーカーとなる可能性がある」
Fu-Chi Yang博士
主に脳の運動系及び体性感覚系に、背内側前頭前野及び後内側皮質(posteromedial cortex、PMC)のサブネットワークに共通する機能的結合性の変化が見られたと博士は述べた。また、片頭痛及び不眠症を併発している患者で、PMCと中心後回との機能的結合性が不眠症罹病期間と相関していた。
Yang博士は、「DMNサブネットワーク結合性の変化及びその共通の局所分布パターンが、不眠症及び片頭痛の併存のバイオマーカーとなる可能性があること、並びにこれら2疾患の併存の病態生理と有意に関連することが、今回の研究結果によって示唆される」と述べた。
参照(頭痛):
- Wijeratne T. Cluster headache: established and emerging treatments. AOCN 2021;ARCH session.
- Garcia-Azorin D, et al. Changes in work productivity and interictal burden: results from randomized, double-blind study evaluating galcanezumab in adults with treatment-resistant migraine (CONQUER). AOCN 2021;H-21.
- Chung C-S. Impact of comorbidity on the treatment and prognosis of headache disorders (migraine). AOCN 2021;ARCH session.
- Lin Y-K, et al. Prevalence and association of lifestyle and medical-, psychiatric-, and pain-related comorbidities in patients with migraine. AOCN;H-4.
- Yang F-C, et al. Shared patterns of brain functional connectivity for the comorbidity between migraine and insomnia. AOCN 2021;H-2.
その他の神経学:AOCNでのハイライト
神経放射線学、卒中及びパーキンソン病におけるAIから睡眠導入剤/鎮静薬の長期的な使用の影響まで、AOCN 2021では多数の重要な問題が議論された。本レポートの最後のセクションには、重要な発表のいくつかを特定したAntony Dickenson教授[ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(University College, London)、英国]のコメントが含まれている。
認知症のセッションで議論されたAIの問題は、本会議のあらゆる分野に共通のテーマであった。Greg Zaharchuk教授[スタンフォード大学(Stanford University)、米国、カリフォルニア州]は、神経放射線学におけるAI及びディープラーニングの利用についてレビューし、次のように述べた。「AIアプローチによって、神経放射線学ではこれまでよりも良く、また完全に新しく、有用なことを行えるようになるだろう」。
「未来を予測することで、AIは
個別化治療を可能にするだろう」
Greg Zaharchuk教授
教授は、スキャン時間、解像度及び安全性の向上に言及した。また、AIによってクロスモダリティの統合が可能になる。脳血流量やアミロイド沈着はPETによる画像検査が最良であるが、これは困難かつ高価となることがある。AIによってMRIの性能が向上し、これらのパラメータが正確に取得できるようになる。Greg Zaharchuk教授は、「未来を予測することで、AIは個別化治療を可能にするだろう」と結論付けた。
Dickenson教授は、「Zaharchuk教授は、疾患進行の測定に使用されているディープラーニングに焦点を当て、現在起こっていることだけでなく次に起こりうることも含めて、思慮深く問題の概要を説明してくれた。AIの利点としては、より安全でより低線量の放射線の使用、スキャン時間の短縮及びデータの解釈の改善などが挙げられるが、これらのいずれによっても放射線科医は貴重な時間が得られる。AIによってMRIが強化され、それにより血流やアミロイド沈着を調査するためのPETの必要性を回避できるという重要ポイントは、うまくできている」とコメントした。
急性卒中治療におけるAIにはどのような役割があるか。David Liebeskind教授[カリフォルニア大学ロサンゼルス校(University of California Los Angeles)、米国]は、その可能性は大きいが、対処すべき重要問題及び答えるべき疑問があると述べた。AOCNでの発表でLiebeskind教授は、「我々は、画像所見に基づいて、個々の患者に最適なケアを判断できるようになる必要がある。我々は、20例の患者を一度に治療することはない。通常は、一度に1例の患者を治療する。我々は、患者に対する最適な治療を決定する際に、そうした情報を生かすための最善の方法を知る必要がある」と述べた。
「AIを用いてスキャンからより多くの情報を引き出すことは
より個別化された治療の提供に大いに役立つ」
Antony Dickenson教授
教授は、加えて次のように述べた。「急性卒中の症例で最も重要な情報とは、どのような情報か。それは、血管閉塞の部位、灌流パターン、あるいはその他の特性だろうか。自動化アプローチが答えを示してくれる可能性があるが、我々が問うべき、より適切な疑問は、それらが我々の求めている答えであり、それらが最も有用な情報をもたらしてくれるものであるかどうか、ということなのである」。
Dickenson教授は、次のようにコメントした。「Liebeskind博士は、過度の単純化を避ける必要性などの重要な注意点をいくつか挙げているが、先ほど発表したZaharchuk博士と同様に、AIによってより個別化された治療を患者に提供できることを指摘している。AIを用いてスキャンからより多くの情報を引き出すことは、この目標の達成に大きく貢献する。最後に、適切な質問をすることが重要であり、発表では最も重要な必要情報の例が示される」とコメントした。
パーキンソン病(Parkinson’s disease、PD)に対するAIの実用的な実装については、Ming-Che Kuo博士(National Taiwan University Hospital、台北)が、PD関連の歩行障害の検出を支援する携帯型AI支援プラットフォームの開発及び試験について説明した。
Kuo博士は、「私たちは、患者中心で、ユーザーフレンドリーで、携帯可能で、手頃な価格で、使いやすい歩行アナライザーを開発した。PDのデジタルバイオマーカーとして歩行の特徴及びパターンを定量的に測定できる。DIGIPoseプラットフォームによって、特にCOVID-19パンデミックの時期に、前臨床スクリーニング、クリニックでの評価、家庭でのサーベイランス及びリモートモニタリングを支援できる可能性がある」と述べた。
また、PD患者は、健康対照と比較して歩長、歩幅及び1歩にかかる時間が短縮していた(いずれもp<0.001)と報告した。PD患者の歩行と健康対照の歩行とを高い分類精度(0.73)、f1スコア(0.71)及び曲線下面積(area under the curve、AUC、0.76)で識別できる予測アルゴリズムを開発した。
Dickenson教授は、次のようにコメントした。「医学的障害の診断及び治療の進歩が研究の文脈だけに留まらないことが重要である。Kuo博士らは、歩行パラメータを評価し、アルゴリズムによってPD患者の歩行を予測する携帯型デバイスについて報告してくれた。患者が歩行している動画を用いることで、本プラットフォームは高い精度を示した。もちろん、COVID-19の期間において患者の遠隔評価に大いに役立つだろう」。
一方、てんかんの遺伝子診断で、家系/三者ベースの全ゲノムシーケンシング(whole genome sequencing、WGS)が主要な役割を担うことが強調された。Yo-Tsen Liu博士[台北栄民総医院神経再生センター(Neurological Institute, Taipei Veterans General Hospital)、台湾]は、家系/三者ベースのWGS(通常は母親、父親、子どもの三者)の研究データを報告した。
WGSによって、遺伝性てんかんが疑われた血縁関係のない55例のうちの42例の患者(的中率76.4%)に遺伝的病因が特定された。7例は既知の病原性バリアントを、35例は病原性又は病原性の可能性が高い新規バリアントを保因していた。的中率が最も高かったのは、早期発症型てんかん群(82.4%)であった。診断された42症例のうち、3つ(7.1%)のコピー数変化(copy number variation、CNV)が検出された。
「我々の研究結果により、てんかんの遺伝子診断で三者ベースのWGSが強力な役割を担うことが裏付けられた」
Yo-Tsen Liu博士
Lin博士は、「我々の研究結果により、特に早期発症型のてんかんの遺伝子診断で三者ベースのWGSが強力な役割を担うことが裏付けられた。これは、薬剤抵抗性てんかんでのWGSの有用性を報告する初の研究でもある。この研究のコホートで示されたように、バイアスのないWGSによって非常に多くのコピー数変化が明らかとなった。
「今後、てんかんの臨床診断にWGSを適用する際には、てんかん専門医のサポートと包括的な臨床情報が必要となる。これにより、非常に優れた臨床的遺伝子型と表現型の相関関係を確立することができる。ゲノムデータの蓄積も重要である」と述べた。
最後に、AOCN 2021で発表された新たな研究により、短時間睡眠者や長時間睡眠者では、睡眠導入剤/鎮静薬の長期的な使用と関連して死亡リスクがさらに高くなることが明らかになった。Yu Sun博士(En Chu Kong Hospital、台湾、新北市)は、1994年1月から2011年12月までに健康スクリーニングプログラムで募集した成人484,916例のデータを解析した研究結果を発表した。
主な結果は以下のとおりである。
- 睡眠時間が極めて短時間(<4時間、HR 1.36)又は長時間(≥8時間、HR 1.26)の被験者では、死亡リスクが30%増加し平均余命が3~4年短縮されるU字型の関連が形成された
- 睡眠時間が極めて短時間、短時間、中程度、長時間である睡眠導入剤/鎮静薬の使用者は、睡眠時間が6~7時間の非使用者と比較して、それぞれ、12.6年、6.7年、5.2年、12.6年平均余命が短かった
Sun博士は、「慢性的な睡眠導入剤/鎮静薬の使用者で失われる寿命の深刻さは利益と釣り合わないものであった。このような薬物誘発性の害に関する概念について、一般の人々の意識を高めるための戦略が必要である」と述べた。
「この結果は注目すべきものである。
本研究は、強力な訓話になる」
Antony Dickenson教授
Dickenson教授は、次のようにコメントした。「Sun博士は、50万例に近い膨大な数の被験者を対象として睡眠導入剤/鎮静薬の長期的な使用の影響を評価した研究データを発表している。被験者を睡眠時間に応じて巧妙に細分化しており、その結果は注目すべきものであった。平均余命が何年も失われたが、これは、10年を超える平均余命が失われる可能性のある睡眠時間が極端に短かい又は長い被験者で興味深いことに最も顕著であった。
「この相互作用の根底にある機序は私にはまだ分からないが、おそらく睡眠の仕組みのさらなる混乱によってこれら2つの群のリスクと相互作用し、そのリスクを高めている、薬剤の薬理作用に関係しているに違いない。これらの群の被験者は、もちろんその他の基礎疾患を抱えているかもしれないが、この研究は強力な訓話になる」。
参照(その他の神経学):
- Zaharchuk G. Artificial intelligence in neuroradiology: current status and future directions. AOCN 2021;Artificial Intelligence in Medicine session.
- Liebeskind D. Incorporated artificial intelligence in acute stroke care. AOCN 2021;Artificial Intelligence in Medicine session.
- Kuo M-C, et al. Gait assessment of Parkinson disease by an AI-assisted 3D camera system. AOCN 2021;C-3.
- Liu Y-T, et al. The contribution of whole genome sequencing to genetic diagnosis of epilepsy: the experience of a tertiary referral center in Taiwan. AOCN 2021;G-13.
- Sun Y, et al. Hypnotics/sedatives users were associated with up to 8 years of shortening of life expectancy in a prospective cohort of 484,916 adults. AOCN 2021;N-7.